[特集]2016年からスタートした新制度“かかりつけ歯科医機能強化型歯科診療所”とは

厚生労働省は2016年保険改定で「かかりつけ歯科医機能強化型歯科診療所(か強診)」を制定した。その目的は、保険の枠組みを一部拡大し、「う蝕(むし歯)や歯周病の重症化予防治療」をより広く定着させることにある。これを受けて、医師・患者・地域の関係はどう変わっていくのだろう。東京都歯科医師会国保担当理事の稲葉孝夫氏に、「か強診」制定の背景と今後の展開などを伺った。

この記事の監修者

名前 稲葉 孝夫 Takao Inaba
プロフィール

東京都歯科医師会国保担当理事、稲葉歯科医院(大田区)院長
東京都出身。東京歯科大学卒業。慶應義塾大学病院口腔外科勤務を経て、大田区に稲葉歯科医院を開院。現在、地域医療へ取り組むとともに、東京都歯科医師会にて国民健康保険の担当理事を務める。

保険改定によって変わった点を、簡単に教えてください

一言で言うと、「う蝕(むし歯)や歯周病の重症化予防治療に対して、保険の適用が受けられやすくなった」ということでしょう。詳しくは別のページでご説明しますが、以下の三本柱が基本となります。

1点目は「エナメル質初期う蝕管理」。これまでは、フッ素塗布を保険でおこなおうとすると、3カ月以上の期間を空ける必要がありました。新制度では、毎月の塗布が可能となっています。2点目は「歯周病の安定期治療の新基準」。こちらも同様に、検査・歯石取り・歯面清掃などが毎月、保険を使って受けられます。3点目は「在宅患者訪問口腔( こうくう) リハビリテーション指導管理」。お口の中にお悩みがあってもなかなか来院できない患者さんに対し、保険の網を広げていくことで、治療の機会を提供しようというものです。

ただし、保険適用の拡大をすべての医院に認めているわけではありません。施設基準を決め、そのすべてを満たした歯科医院だけが「か強診」を名乗れます。もちろん、このような取り組みを、従来から引き続き実践している歯科医院もあるでしょう。「か強診」の認定を受けている医院は2017年6月現在で約1割。残りの9割が上記三本柱に取り組んでいないのかというと、決してそんなことはありません。ですから、「か強診認定医院」と「それ以外の医院」という二分した考え方は、適切でないように思います。患者さんが現在の治療に満足しているのなら、わざわざ転院する必要はないでしょう。

一般の人が考える「かかりつけ」とは、少しニュアンスが違わないでしょうか?

では、日本歯科総合研究機構が2015年に調べた「かかりつけの歯科医に関する調査」の結果を見てみましょう。これによると、「わかりやすい説明」「院内が清潔」「スタッフが丁寧」などの定性的な回答が上位を占めています。一方、「歯科医療に関する知識が豊富」「治療技術が高い」などの技術的な回答は、10位以下になってようやく顔を出します。ご指摘のように、医療従事者が考えている「かかりつけ」と、一般の人が持っているイメージには、開きがあるようです。

我々も本当は、より患者に近い存在としての「かかりつけ」をイメージしていました。たとえば一般医科。ちょっとしたかぜやケガであれば、大学病院へ行かずに、身近な「かかりつけ医」の診察を受けてほしいと。その方が、医療費の抑制につながりますからね。薬科にしても同様です。処方薬の重複や飲み合わせの弊害を防ぐために、「かかりつけ薬局」を持ってほしいと。

ところが、「かかりつけ歯科医」に限って、医療費の削減に結び付く明確な根拠が見られなかったのです。そうなってくると、「わかりやすい説明」「スタッフが丁寧」などとは異なった視点から、「かかりつけ歯科医」のメリットを押し出していく必要があります。そこで、「かかりつけ歯科医機能『強化型』歯科診療所」と強調する形で、上述の三本柱に代表されるような各要件を検討していったのです。

つまり「か強診」は、技術的なインジケーターであると?

制度の建て付けから見るとそうなりますが、本音を言えば、「安全・安心が得られる医院」という部分に着目していただきたいですね。繰り返しになりますが、現在の医院で満足しているのなら、それでかまわないと考えています。そうではなく、いまひとつ先生と肌が合わなかったり、あるいは引っ越し・進学・転勤などのさまざまな場面で転院を余儀なくされたり、そのようなときに、検討材料のひとつとして「か強診」があってもいいのではないでしょうか。

もちろん、口コミで選ぶ、同僚や先輩に聞くなどという選び方もあるはずです。今までの経過を見ればわかるように、「医療費の削減」と「かかりつけのイメージ」を出発点とした制度ですから、私自身、絶対的なふるい分けとは考えていません。まだまだ始まったばかりですし、いろいろな意味で十分な議論を重ねつつ、今後につなげていきたいですね。

「か強診」の施設基準は、どのようにして決められたのですか?

先ほどご説明したとおり、この制度の背景には「かかりつけ医を持つことによる医療費の削減」という施策的な目標がありました。その一方、歯科医院のイメージに限って言うなら、ミスリードしかねない状況が進んでいたのです。このイメージギャップは、時間がたてばたつほど、広がっていってしまうでしょう。どうしたら、「安心・安全が得られる歯科医院」というニュアンスを、すみやかに広められるのか。

そこで、従来からあった2つの施設条件を合体させることになりました。ひとつは、外来の患者さんに対して感染症や衛生面の取り組みをおこなっている「歯科外来診療環境体制加算(外来環)」。もうひとつは、院外においても治療機会の拡大を図っている「在宅療養支援歯科診療所(歯援診)」です。特定医院を認定する制度というと、あたかも院内の治療環境が問われているように聞こえるかもしれません。しかし、在宅・訪問診療への対応も求めているのです。

我々が危惧しているのは、本来、こうした「患者さんのための制度」であるにもかかわらず、医師の都合のよいように解釈されてしまうこと。たとえば、歯周病の安定期治療をおこなうと高い点数が得られるものの、そこばかり注力されても困ります。我々歯科医師会としても、強く警鐘を鳴らしているところです。

ほかにも、問題点や注意喚起などがあったら、教えてください

懸念されるのは、要件としている訪問診療に、都心と地方都市で地域的な差があるということです。昼間人口比率が極端に大きい都心部では、そもそも取り組み方が難しいでしょう。実際、この要件が足かせとなって、「か強診」に乗っていけない先生もいらっしゃるはずです。歯科医師会経由でもいいので、実績を上げてほしいですね。

ただし、訪問診療や先ほど指摘した歯周病治療は、どちらかというと「従」の部分に過ぎません。我々が本当に掲げたいのは、「安全」と「重症化予防」と「医療の質の確保」なのです。一部から指摘されているような、「特定の治療へ取り組むクリニックは保険制度内で優遇をします」という意味では、必ずしもありません。

とはいえ、結果として、訪問診療を受けられる患者さんが1人でも2人でも増えたら、それは好ましいことですよね。現在、訪問診療を集中的におこなっているのは主に訪問診療を専門にした診療所が大半ですが、任せっきりにするのではなく、歯科医師から積極的に参加していく必要があります。その意味で、インターネットの指摘を否定する立場でもありません。

最後に、これをご覧になっている先生方へ、「設備の導入で終わらせず、技術の研修も合わせておこなってほしい」と申し添えさせてください。施設基準をクリアしても、常にその機能が発揮できるようにしておかないと、形式的なものになってしまうでしょう。もちろん、医師全員が乗れる話ではないですし、見直しをかける余地もあると思っています。ともに、よりよい歯科医療のあり方を考えていきましょう。

かかりつけ歯科医機能強化型歯科診療所(か強診)の施設基準

施設基準要約
(1)過去1年間に歯科訪問診療1又は2、歯周病安定期治療及びクラウン・ブリッジ維持管理料を算定している実績があること。 外来・訪問の両面で、「歯を長持ちさせる」取り組みをしてきたこと。
(2)①偶発症に対する緊急性の対応、医療事故及び感染症対策等の医療安全対策に係る研修、②高齢者の心身の特性、口腔機能の管理及び緊急時対応等に係る研修を修了した常勤の歯科医師が1名以上配置されていること。 予期していなかった医療事故へ冷静に対応できること。高齢者への配慮が十分おこなえること。また、そのための研修制度を実施していること。
(3)歯科医師が複数名配置されていること又は歯科医師及び歯科衛生士がそれぞれ一名以上配置されていること。 複数人の医療従事者が在籍し、万が一の事態にも、手分けして対応できること。
(4)診療における偶発症等緊急時に円滑な対応ができるよう、別の保険医療機関との事前の連携体制が確保されていること。 一般医科や総合病院などと連携し、緊急の疾患に対しても、紹介や送患ができること。
(5)当該診療所において、迅速に歯科訪問診療が可能な歯科医師をあらかじめ指定するとともに、当該担当医名、連絡先電話番号等について、事前に患者等に対して説明の 上、文書により提供していること。 通院中の患者が高齢や身体的な原因によって通えなくなったとしても、訪問診療という形で、継続的な治療を提供できること。
(6)当該地域において、在宅医療を担う保険医療機関と連携を図り、必要に応じて、情報提供できる体制を確保していること。 他の医療機関などから情報提供を求められた場合、その必要に応じて、すみやかな回答ができること。
(7)当該地域において、他の保健医療サービス及び福祉サービスの連携調整を担当する者と連携していること。 地域の医療・福祉施設などから応援の要請があった場合、これを受け入れられること。
(8)口腔内で使用する歯科医療機器等について、患者ごとの交換や、専用の機器を用いた洗浄・滅菌処理を徹底する等十分な感染症対策を講じていること。 使用する医療機器についての衛生対策が十分に図られていること。
(9)感染症患者に対する歯科診療について、ユニットの確保等を含めた診療体制を常時確保していること。 感染症患者が歯科治療を望んだときに、適切に応じられること。また、二次感染への対策が講じられていること。
(10)歯科用吸引装置等により、歯科ユニット毎に歯の切削時等に飛散する細かな物質を吸引できる環境を確保していること。 歯の治療時に飛散する細かな物質を、ユニットごとに設けられた機材で吸引できること。
(11)患者にとって安心で安全な歯科医療環境の提供をおこなうにつき次の十分な装置・器具等を有していること。①自動体外式除細動器(AED)、②経皮的酸素飽和度測定器(パルスオキシメーター)、③酸素供給装置、④血圧計、⑤救急蘇生セット、⑥歯科用吸引器 自動体外式除細動器(AED)や酸素供給装置、救急蘇生セットといった所定の機材を導入し、「安心・安全」のための配慮を心がけていること。